ADHD症状の改善により、学習能力は上がるのか?
――札幌市中央区・児童精神科専門クリニック
和光メンタルクリニック札幌宮の森より――
ADHD症状の改善により、学習能力は上がるのか?
――札幌市中央区・児童精神科専門クリニック
和光メンタルクリニック札幌宮の森より――
ADHD(注意欠如・多動症)は、
「集中が続かない」「忘れ物が多い」「衝動的に行動してしまう」といった特徴を持つ発達特性です。
では、
ADHDの症状が改善すると、学習能力が上がるのか?
これは保護者の方から非常によくいただくご質問です。
結論として――
ADHD症状が整うことで、学習に必要な“土台の力”が整い、結果として学習能力が向上する可能性があります。
ここでは、なぜそう言えるのか、医学的視点から分かりやすく説明します。
1. そもそも「学習能力」とは何で決まる?
学習能力=「勉強のセンス」や「頭の良さ」だけではありません。
学びを支えるには、以下のような“基礎スキル”が欠かせません。
- 注意の持続(集中力)
- ワーキングメモリ(聞いた情報を一時的に覚える力)
- 遂行機能(計画・段取り・切り替え)
- 衝動性のコントロール
- 感情の安定
- 自己肯定感
これらが整ってはじめて、
「授業に集中できる」「家庭学習が進む」「テスト勉強に取り組める」といった実際の学習行動につながります。
ADHDは、この“学習の土台”となる部分に困難が生じやすいため、
IQ(知能指数)は十分高くても成績に結びつかないケースが多いのです。
2. ADHD症状が学習に与える影響
ADHDの特性は、学習のさまざまな場面で影響を及ぼします。
● 不注意の影響
- 授業中、少しの物音で気が散りやすい
- 板書を書き写しきれない
- 宿題のやり忘れ・提出し忘れ
- ミスが多い
● 多動・落ち着きのなさの影響
- じっと座っていられず、話の流れを追えない
- 集団授業が苦痛になる
● 衝動性の影響
- 思いついた行動をすぐしてしまい、課題が中断する
- 考える前に動いてしまい、トラブルになる
● 感情調整の難しさ
- 思い通りにならないと勉強を途中でやめてしまう
- 失敗に過敏で、挑戦しなくなる
● 自己肯定感の低下
- 「自分はできない」「勉強は苦手」と思い込み、意欲が下がる
これらはすべて「本人の怠け」ではなく、
脳の特性により“勉強に向かいづらい状態”が起こっているだけです。
3. ADHD症状が改善すると、学習能力が上がりやすくなる理由
ADHD特性が整うと、次のような“学習に直結する変化”が現れることがあります。
① 注意が持続し、授業内容を理解しやすくなる
- 周囲の刺激に左右されにくくなる
- 授業の流れを追いやすくなる
- 多くの情報を取りこぼさずに済む
② ワーキングメモリが働きやすくなる
- 「黒板を見る → ノートに写す → 先生の説明を聞く」がスムーズに
- 課題の指示を忘れにくい
③ 遂行機能(計画性・段取り)が整う
- 宿題を“どこから始めるか”考えられる
- テスト勉強を逆算して行える
④ 衝動性が落ち着き、学習が中断しにくくなる
- 思いつき行動で勉強が途切れない
- 感情に振り回されにくい
⑤ 「やればできる」という成功体験が増え、意欲UP
- 自己肯定感が高まり、挑戦できるように
- 学校生活全体も安定してくる
これらが積み重なることで、結果として
「勉強が分かる → 楽しくなる → さらに取り組める」
という好循環が生まれます。
4. ADHD症状改善のためにできること
● ① 環境調整(家庭・学校)
- 散らかった机を片づける
- タイマー学習(短時間集中 → 休憩)
- 視覚的なスケジュール提示
- 宿題・プリント置き場の固定
- 学校との連携(配慮・座席調整など)
● ② 心理学的アプローチ
- 認知行動療法
- ソーシャルスキルトレーニング
- 自己理解を深める支援
● ③ 薬物療法(必要な場合)
薬物療法は、
「集中力を上げる薬」ではなく、脳内の伝達物質の働きを整える薬です。
その結果として、
- 注意が持続しやすくなる
- 衝動性が落ち着く
- ミスが減る
- 作業に取り組みやすくなる
といった変化が見られることがあります。
薬物療法は「最終手段」ではなく、
学習・生活全体の負担を軽くするための一つの選択肢と考えてください。
5. ADHD症状が整うと、学習能力はどう変わる?
ADHD症状の改善後には、実際に以下のような変化が見られることがあります。
- テストで「読み間違い」や「ケアレスミス」が減る
- 宿題のやり忘れが減る
- 授業中の理解度が上がる
- 計画的に学習できる
- 勉強への抵抗感が減る
- 成績が安定する
ここで重要なのは、
学習能力自体が“急に上がる”というより、
それを邪魔していたADHD症状が整うことで、
本来の力が発揮されるようになる
という点です。
お子さまが持っている“本当の力”が見えるようになる。
これが、ADHD治療の大切な意義の一つです。
6. まとめ:ADHD症状改善は、学習の伸びを大きく後押しします
- ADHDは“学習の土台となる力”に影響する発達特性
- 症状が整うことで、「学習しやすい状態」がつくりやすくなる
- それにより、結果として学習能力が伸びる可能性が高い
- 環境調整・心理支援・薬物療法を組み合わせることが効果的
- ADHDは「努力不足」ではなく、「脳の特性」が理由
お子さまの本来の能力を伸ばすためには、
学習を頑張らせる前に、学習しやすい状態を整えることが最重要です。
和光メンタルクリニック札幌宮の森では、
お子さま一人ひとりの特性を丁寧に評価し、
ご家庭・学校と連携しながら、学習と生活を支えるサポートを行っています。

