ASDとADHDの合併について
1.ASDとADHDは「別の病気」だけど、いっしょに出やすい
ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如・多動症)は、
どちらも「発達特性」による診断名です。
ASD:
対人関係やコミュニケーションの苦手さ
こだわりの強さ、感覚の過敏・鈍麻
などが中心となる特性
ADHD:
不注意(ケアレスミス・忘れ物・集中の続きにくさ)
多動・衝動性(じっとしていられない、思いつきで行動してしまう)
が中心となる特性
この2つは本来、別々の診断 ですが、
実際の診療では 「両方の特性をあわせ持っているお子さん」 が少なくありません。
研究によって数字は多少異なりますが、
ASDのお子さんのうち、3~5割程度にADHDの症状もみられる
と言われており、「合併(併存)」は決して珍しいものではありません。
2.ASD+ADHDが合併している時に見られやすい特徴
ASDとADHDが合併すると、次のような姿として現れやすくなります。
① 対人関係のつまずきが目立つ
相手の気持ちや場の空気を読み取ることが苦手(ASDの特性)
思いついたことをすぐ口に出してしまう・行動してしまう(ADHDの衝動性)
この2つが重なると、
冗談のつもりで言ったことが相手を傷つけてしまう
本人に悪気はなくても、「わがまま」「空気が読めない」と受け取られやすい
トラブルが続き、友達関係が不安定になりやすい
といった状況になりがちです。
② 学校生活・学習面での困りごと
興味のあることには極端に集中する一方、
興味のない課題にはほとんど手がつかない
授業中にぼーっとしてしまったり、反対にそわそわして立ち歩いてしまう
連絡帳や宿題、提出物を何度も忘れてしまう
黒板を写す・ノートをまとめるなど、「段取り」が苦手
ASD由来の「こだわり」や「見通しの立てにくさ」と、
ADHD由来の「不注意・多動性」が組み合わさることで、
学力そのものはあるのに、成績や評価に結びつきにくい ことも多くみられます。
③ 感覚の過敏・生活上の苦手さ
音や光、人混みがとても苦手(ASD)
その場から急に走って離れてしまう、パニックになる(ADHDの衝動性)
このように、
感覚のつらさ+衝動的な行動 が合わさると、
周囲からは「わがまま」「落ち着きがない」と誤解されやすく、
子ども本人も「どうして自分だけうまくいかないんだろう」と自己肯定感が下がりがちです。
3.ASDとADHDの合併が与えるこころへの影響
ASDとADHDが合併しているお子さんは、
本人の努力に比べて「失敗体験」「叱責される経験」が増えやすい傾向があります。
その結果、
自信の低下(「どうせ自分はダメだ」)
不安・緊張、登校しぶり
抑うつ状態
二次的な「キレやすさ」「かんしゃく」
といった 二次的なこころの症状 が出てくることがあります。
周囲が「しつけ」「性格」の問題とだけ考え、
本人の特性に気づかないままだと、
こうした二次的な問題が大きくなり、
思春期以降に不登校やひきこもりにつながることもあります。
4.どうやって診断するの?(評価のポイント)
ASDとADHDの合併を見立てる際は、
「どの場面で、どんな困りごとが出ているか」 を丁寧に確認することが大切です。
① 問診
乳幼児期からの様子(言葉の発達、遊び方、こだわりなど)
保育園・幼稚園、小学校での行動パターン
家庭と学校での様子の違い
ご家族の中に似た特性を持つ方がいるか など
② 行動観察・心理検査
必要に応じて、
知能検査(WISCなど)
注意・衝動性を評価する検査
自閉スペクトラム症の特性を評価する尺度
などを組み合わせ、
お子さんの得意・不得意の全体像 を把握していきます。
③ 学校や園との情報共有
学校・園からの「行動の記録」や「先生からの聞き取り」はとても重要です。
和光メンタルクリニック札幌宮の森では、
必要に応じて 学校との連携・支援会議 にも関わりながら、
お子さんに合った環境調整を一緒に考えます。
5.ASD+ADHDのお子さんへの支援の考え方
① 「特性」を理解し、責めない関わりを
まず一番大切なのは、
「できないのは、怠けているからでも性格が悪いからでもなく、
脳の特性によるものだ」
という理解です。
叱責や説教だけで特性が消えることはありません。
逆に、自己肯定感を下げ、こころの不調を悪化させてしまうことがあります。
「どうしてできないの?」ではなく、
「どうしたらやりやすくなるかな?」という視点 を
大人側が持つことがとても重要です。
② 環境調整と具体的な工夫
ASDとADHDの合併では、
「見通しを示す」「刺激を減らす」「手順をわかりやすくする」 ことがポイントです。
例)
時間割や一日の流れを、絵や表で「見える化」する
宿題やプリントを入れる場所を固定し、色分けして分かりやすくする
静かに集中できる席を選ぶ(教室の後方・壁側など)
長い課題は「小さなステップ」に分けて、一つずつクリアしていく
終わったらすぐに「できたね」と言葉でフィードバックする
小さな工夫の積み重ねが、
お子さんの「できた!」という成功体験につながります。
③ 薬物療法について
必要に応じて、
ADHD症状(不注意・多動・衝動性)に対するお薬
不安や抑うつが強い場合の安定薬・抗うつ薬
などを検討することがあります。
薬はあくまで 「特性をゼロにするもの」ではなく、
「日常生活が送りやすくなるように手助けするもの」 です。
和光メンタルクリニック札幌宮の森では、
お子さんと保護者の方と相談しながら、
メリット・デメリットを丁寧に説明したうえで、
必要最小限の量から慎重に調整していきます。
6.ご家庭で大切にしてほしいポイント
できているところに目を向ける
「忘れ物が減ったね」「今日は最後まで座っていられたね」など、
小さな成長を言葉にして伝えることが、自己肯定感の回復につながります。
比較しすぎない
兄弟や同級生と比べる言葉は、お子さんを深く傷つけてしまうことがあります。
「あなたはあなたのペースでいいよ」というメッセージを伝えてあげてください。
家では安心して“素”でいられる場所に
学校でがんばっている分、家庭では疲れが出て荒れてしまうこともあります。
叱りつける前に、「今日学校で何かあったかな?」と、背景を想像してもらえると良いと思います。
7.こんなときは専門クリニックに相談を
友達関係のトラブルやいじめが増えている
不登校・行きしぶりが続いている
忘れ物・ケアレスミスが多く、努力しても改善しない
こだわりや感覚過敏で日常生活に支障が出ている
「発達障害かもしれない」と周囲から指摘され、不安を感じている
こうした場合には、
お子さんやご家族だけで抱え込まず、
児童精神科専門の医療機関に相談していただくことをおすすめします。
まとめ
ASDとADHDの合併は珍しいことではなく、適切な理解と支援でお子さんの力を伸ばすことができます。
札幌市中央区の 和光メンタルクリニック札幌宮の森 では、
ASD・ADHDを含む発達特性の評価
学校・園との連携支援
ご家庭での関わり方のアドバイス
必要に応じた薬物療法
などを通して、
お子さんとご家族が少しでも楽に、安心して生活できるようサポートしています。
「もしかしてうちの子も…?」と感じたときは、
一人で悩まず、どうぞお気軽にご相談ください。